🐘たびっこ動物🐅

毎月プチ旅行

灰色の雀 #1


その日の私は感傷的だった。「希望の数だけ失望は増える」という歌のフレーズがガードの隙間から心に刺さり、通勤電車の中で涙ぐんでいた。そもそもお盆明けからの溜まった業務や、9月の新規プロジェクトの立ち上げで少し疲れていたのかもしれない。起きた時から体がだるくて、いつも以上に会社に行きたくなかった。いつも行きたくないのは、半年前に雇われたこの部署で気の合う人もできなければ、上司とも馬が合わずで完全に孤立しているからだ。それでも休もうという選択肢はなく、体が勝手に支度をしたので家を出た。

9月1日は学校に行きたくない子供の自殺が最も多い日だ。携帯のニュースを読みながら、人ごとのように、そこで自殺する子はその先も生きてはいけないだろう、なんて考えた。人間も弱肉強食なのだ。

疲れが溜まっていたので、今日こそは早く帰ろうと明日の自分に押し付けて切り上げた。オフィス内のカサカサと痛い冷房の冷気はいつも耐えかねる。これで体調が悪化している気がする。体をさすりながら外に出ると、ぬめっとまとわりつくような湿気に包まれた。冷え切った指先がぼうっと温まるのを感じ、まだ夏だな、と思った。
この時間は帰宅ラッシュだ。残業してもないのに、駅までの道を少しうつむきながら歩いた。ふと道に落ちている何かが視界に入った。そのまま3歩過ぎたが、見逃しちゃいけない気がした。早く帰れて時間があったからか、感傷に浸っている日だったのか、戻って顔を地面に近づけてみると、少し眼を開けてすずめが死んでいた。立ち尽くして少し考えた。こんな道の真ん中にいたら誰かに蹴飛ばされるんじゃないか、歩道の端の木の根元まで運んでやろうと思った。すずめを素手で触ってはいけないと聞いたことがあったので、何かないかとリュックの中を探した。タオル、ペットボトル、折り畳み傘、ううん、だめだ、と渋っていたら、木の根元にアイスの棒が落ちてるのを見つけた。すずめをつついてみると、アイスの棒越しから、焼きたて餅のような柔らかさと、夏の湿気を全部吸い込んだような重みが伝わってきた。ビクともしないすずめを木の根元の土の上まで転がした。そしてすずめの顔をじっと見た。半開きの瞼の奥の、思春期の髪の毛のように黒くツヤのある眼に、なんで死んだのか、と聞いてみた。真っ暗な目はまだこの世界を見ているように感じた。茶色と灰色の砂を無理やり混ぜたような空には、やり切れないすずめの魂が浮かんでいるようだった。
アイスの棒を土に突き刺し、お墓のようにしてやった。心の中で少し祈ってから、またうつむきがちに歩き始めた。死んだすずめをどう感じていいのかわからなかったが、頑張って生きようとは思えなかった。