🐘たびっこ動物🐅

毎月プチ旅行

灰色の雀 #3

 

今日の朝も憂鬱だった。仕事終わりに両親と会う約束があったからだ。派遣社員の私に父が正社員の仕事を押し付けに来るのだ。寿司詰め状態の電車から飛び出すように出され、会社までの道を歩いていると、昨日のすずめの様子が気になった。すずめが昨日と同じ場所にいたことで、何故か心のざわつきが落ち着いた。すずめは吸い込んだ湿気を蒸発させて、羽に柔らかさを取り戻していた。ただ眠っているようにふわふわしている。すずめの横に黄色い袋の飴が落ちていた。レモン味ののど飴だった。誰かが落として転がったのではなく、すずめの為に供えられていた。私はそれをじっと見て、どんな人なのだろうと想像した。

 

両親と会う時間が近づくと胸のざわつきも増してきた。時間に遅れて気分を害すのも面倒だったので、嫌な顔をされながらも仕事を切り上げた。派遣で雇われている会社だが、人員不足で社員との線引きは曖昧だった。定時間際に仕事をドッサリ任されて遅くまで残業することもあった。それでも他にやることのない私は、お金が増えるならと思い引き受けていた。社員の人達もほとんど全員が終電間際まで残っているような会社だ。派遣の面接の時は、遅くても20時までにはみんな帰ると聞いていたのに。

 

会社の外へ出るともう暗くなり始めていた。両親が車で迎えに来る予定だったが、辺りを見渡してもまだそれらしき車はなかった。私はまたすずめを見に行った。すずめはもう完全に目を閉じていた。受け入れたようにも諦めたようにも見えた。横たわったすずめが少し小さくなったように感じた。それでも安らかに寝ている顔はずっと見ていられた。

 

車のライトがちらっと私を照らした。父の車だったら嫌だなと思いながら目を向けようとした時だった。肥やしたての土に鉄の塊を落としたような鈍い音がした。なにが起こったのか、はっきり見た時には、ライトの照った車が横断歩道の真ん中で止まっていた。目をまん丸にして口をぽかんと開けた車が言葉を失っている。ライトの先には男性が倒れていた。嫌な予感がした。

 

息を止めて、胸のざわつきを感じないようにした。それでもどこからかじわじわと湧き出てくる不安の海は、次第に真っ暗闇に変わった。

車から降りてきたのは、父親だった。助手席に座っている母は両手で顔を覆い、肩で息を吸うばかりだ。

感じたことのない絶望が空より上から加速をつけて私の上に落ちてきた。

父は男性の様子を少し見てから、母の元へ戻り、母の肩にしがみつきながらなにやら話している。私はその場から立ち去り、母に仕事が長引いて今日は無理そうだ、と連絡を入れた。