以前、彼に会ったらほっぺに透明の毛が生えていた。
透明で固くてプラスチックのようだった。毛ではなく、プラスチックなのかもしれないと思うほど、プラスチックによく似たそれは、よく見ると二股に裂けて田植えの苗みたいになっていた。
彼が言うには、気づいたら生えていて縁起がよさそうだからそのままにしているらしい。
私は、それが何なのか気になって抜いてみたくなった。
スマホで「透明 固い 毛」で検索したら似たような事例があったのだが、でもなんか違う。
なんだろうこれは。
なんでこんなプラスチックが生えてきているんだろう。
なんでこんなに固いのに裂けているんだろう。
ただの毛?刺さったトゲ?体質?なにかの病?
なんだ?なんなんだこれは。
見れば見るほどわからない。見れば見るほど気になるのだ。
少し力を込めて引っ張ってみたら、プラスチックのようなそれは抜けてしまった。
その瞬間、私の興味はほぼなくなったのだ。
ただの毛だったんだと思った。
私が興味を持ったのは毛ではないのかもしれない、という可能性だった。
抜いたら栓が外れたように血が出るとか、野菜のように実がついているとか、もしくはどんなに引っ張っても抜けないほど固いとか。
さっきまで他に何もできないほど気になっていたのに、もうどうでもいいのだ。
拍子抜けである。
抜いても何も解決しなかった。
縁起がよさそうと見守っていた彼には謝った。
しかし結局それが本当に毛なのか、何なのかはわからない。
もし次生えてきたら、今度は抜かずに見守ろうと思う。
こうして、抜かずに見守ろうと思えるのは、一度抜いたからこそなのだ。
そう思うと、意味のある抜きだった。
世の中にはこんなことがたくさんある。